広島市中心部の1939年から2008年までの経年変化を航空写真で見てみる

前回の記事では、国土地理院の地図・空中写真閲覧サービスを使って昔撮影された航空写真を見てみましたが、今回はデータをダウンロードして実際に経年変化が見られるように画像を加工してみようと思います。
広島市の経年変化 1939年~2008年

使用したもの

今回は、
・国土地理院ウェブサイト(https://mapps.gsi.go.jp/)の
 地図・空中写真閲覧サービスからダウンロードした広島市の航空写真12枚
・画像加工ソフト(Adobe Photoshop 6.0)
を使っています。
画像を回転させたり変形させたりレイヤー構造のファイルを作成するので、そこそこのスペックを持っているPCが必要になるかもしれません。

本来なら地形図をベースにして作成しますが、手持ちに地形図データがない(探せば数値地図が部屋のどこかにあるんですがめんどくさかった)ので、ダウンロードした航空写真のうち、比較的小縮尺の写真にあわせて作成することにしました。
まあ仕事で作るわけじゃないし、真北が出てなくても多少歪んでても問題ないでしょ~。

航空写真のダウンロードの仕方


まず、作成する範囲と、いつからいつまでの写真を何年刻みで使うかを考えます。
作成する範囲が広すぎると使用する写真の枚数が増えますし、写真同士を繋ぐ回数も増えて時間がかかります。
また、あまり年数の刻み幅が狭いと変化が分かりにくいですし、枚数も多くなって作業がしづらくなります。かといって刻み幅を広くしすぎると読み取れるものが少なくなってしまいます。

ということで、今回わたしは広島市中心部(具体的には広島城や現在の原爆ドームが写っているあたり)の戦中~現在にかけて約10年刻みくらいで写真をダウンロードすることにしました。

おおよその計画が決まったら、それに合わせて写真をダウンロードします。

地図・空中写真閲覧サービスで広島市を開いて、検索条件を 1935年~1945年 / カラー・モノクロ として 空中写真にチェックを入れます。
検索条件を指定して撮影範囲を確認

地図上にプロットされるピンクの点から目的の範囲が写っていそうなところを開いて、写っている範囲や諸元などを確認します。
表示して撮影範囲や諸元を確認

諸元の下の方に「ダウンロード」というボタンがあるので、クリックします。
アンケートへの記入を求められるので、記入して送信するとダウンロードができるようになります。
アンケートに記入
以降、同じ手順で必要な写真をダウンロードしていきます。アンケートの記入は、日数が開かない限りは1回だけです。
ダウンロードできる写真は400dpiです。仕事で使うには粗いですが、個人で楽しむ分には十分かと思います。

前回の記事でも触れましたが、毎年撮影を行っているわけではないですし、全ての航空写真が開示されているわけでもなさそうですから、ある程度の妥協は必要です。

写真の加工


ダウンロードした写真は縮尺が違っていたり向きがずれていたりしているので、それらを揃えたほうが見やすくなります。
今回は最終的にレイヤー構造になっている.psdファイル(Photoshop形式のファイル)を作るので、どのみち加工が必要になります。

ベースにする写真を決める


最初の方で書いた通り、部屋の中で数値地図が行方不明中なので、比較的小縮尺の写真をベースにしてそれに合わせていくことにします。
(本来なら、1:25,000地形図や数値地図1/25,000をベースにして作成します)
小縮尺の写真を使う理由は、歪が比較的少ないことと、全体像を掴みやすいからです。

「写真なのに歪?」と思われるかもしれませんが、基本的には周辺部に行けば行くほど歪が大きくなりますし、高いものは大きく写ります。
これは、カメラから近くのものほど大きく写り、遠くのものは小さく写るから。
また、飛行機も必ずしも完全な水平状態で撮影できるわけではないので、厳密にはカメラ自体が傾いています。
なので、単純に写真同士や写真と地形図を重ね合わせてもズレて見えます。


2枚目以降は、縮尺調整して回転させてからが楽


2枚目の写真はベースになる写真の上に乗せて回転/変形させて合わせるわけですが、ベースに乗せる前に縮尺調整をして回転させてから乗せたほうが楽に作業できます。
縮尺調整前 左がベース 右をレイヤーとして使用

上のスクリーンショットでは、2枚を同じ拡大率で表示しています。
左側の写真をベースにして右側の写真を上に乗せたいんですが、見た目で縮尺が違うのが分かりますね?

縮尺と回転の大まかな調整は、両方の写真に写っているできるだけ離れた2点間の距離を出して、そこから同じ縮尺になるように計算することで行なえます。
両方の写真の同一の2点間の距離を測る

ものさしツールで、まずA - B 間の距離と角度を測ります。1403.80pix -115.1度でした。
次に A' - B' の距離と角度を測ります。こちらは2487.32pix -114.7度でした。
これを同じ距離にすればいいわけですから、1403.80÷2487.32=0.5643...なので、2枚目の写真を0.5643倍すればだいたい同じ大きさになるはずです。
角度はあまりズレがなかったですが、時計回りに0.4度回転させてやるとだいたい同じになるはずです。
実際にやってみましょう。
縮尺調整・回転後にレイヤーとして重ねた結果

レイヤーとして重ねたあと、透明度を50%にしてズレてるかを見てみます。
ほぼ揃いました。


全体を見てみると、北西側と南東側でだいぶズレています。
ここからは自由変形でズレをとっていきます。
北西側と南東側のズレ

自由変形でぐにっとやって…
自由変形でズレをとる

まあこんなもんじゃろー

あとはこの繰り返しです。
完璧にベースと揃えるっていうのは難しいので、ある程度妥協も必要かと。
そもそもベースの写真自体にも歪はありますしね。

写真をつなぎ合わせる


写っている範囲が足りないときは同じ年度の写真をつなぎ合わせることになります。
例えば、今回ダウンロードした写真のうち、2008年の航空写真は下のように公開されている範囲が長方形になっていました。
1枚の写真では写っている範囲が狭いので、複数の写真をつなぎ合わせます。
2008年5月21日撮影の写真 C26-42

同じ要領で縮尺を合わせて回転させ、ベースの上に乗せてズレをとります。
次に隣の写真を同じように前処理(縮尺変更と回転)してベースの上に乗せ、ベースと隣の写真にあうように自由変形でズレを取ります。
多分写真の周辺部はきっちり合わないですが、川の上とか目立たない場所でカットして取り除いてしまえばいいです。
最後に同じ年度のレイヤー同士を結合して1枚のレイヤーにします。
3枚の写真を接合して1枚の写真に

最終的に、1939年・1945年・1961年・1966年・1975年・1988年・1995年・2008年の8枚のレイヤーを持つ.psdファイルができました。
8枚のレイヤーを持つPhotoshop形式のファイル

時代の移り変わりを見てみる


それでは、出来上がったものを見ていきましょう。

1939年12月


1939年12月撮影

1939年の第二次世界大戦が始まってすぐあたりの時期になります。
太平洋戦争(1945年12月開戦)よりも少し前ですね。

広島城の周りには軍の施設が整然と並んでいます。明治27年以降、広島城には大本営が設置されていた時期がありました。実は軍都だったんですよね。

1945年7月


1945年7月撮影

終戦間近、原爆投下直前の写真です。撮影したのは米軍。
1939年の写真と比べて道幅が妙に広くなっているところがありますが、空襲による延焼を防ぐための防火帯のようです。とは言え、広島市は他の都市と比べると空襲にあった回数は少なかったようです。

実は原爆投下直後の航空写真も公開されているのですが、ノイズのようなものがひどかったので今回は採用しませんでした。よくドキュメンタリーで取り上げられるのでご覧になった方は多いと思いますが、ほんとに何もなくなってます。興味のある方は国土地理院の閲覧サービスで御覧ください。

1961年2月


1961年2月撮影

少し時代が飛んで、1961年2月の写真です。
広島城にあった軍の施設は姿を消し、住宅(いわゆる原爆スラムと呼ばれるバラック)が密集してます。
平和公園も確認できますし、広島市民球場(現在はありません)も確認できます。

1966年10月


1966年10月撮影

基町の再開発事業が開始されたのはこの写真が撮影された2年後の1968年ですが、写真の北側に市営住宅が建ちはじめています。
南側(原爆ドームの注記が入っているあたり)の紙屋町・大手町・袋町あたりには、背の高い建物がだいぶ増えているように見えます。

1975年1月


1975年1月撮影
カラーになっている部分が1975年1月撮影の写真です。
基町再開発事業が始まって、原爆スラムの中央を道路(城南通り)が通り、空鞘橋がかかっています。バラックも減っていて、だいぶ事業が進んでいるように見えます。
市民球場の東側にあたる紙屋町交差点には、広島そごう/バスセンターが建ってますね。

1988年10月


1988年10月撮影

基町再開発事業(1968年~1978年)が終了して10年後です。バラックはすっかりなくなり、基町高層アパート・中央公園・ファミリープール・広島グリーンアリーナ等が立ち並んでいます。「10年ひと昔」とは言ったものです。

1995年5月


1995年5月撮影

1988年の写真と比べると、ほとんど変化がないように見えます。
変わったのは、NTT基町クレド/パセーラとリーガロイヤルホテルが建ったくらいでしょうか。
こうしてみてみると、基町の再開発事業が終わったあたりで現在の広島市中心部の風景がほぼ出来上がったように見えます。

2008年5月


2008年5月撮影

土地利用や構造物にほとんど変化が見られないように感じられます。
この写真には旧広島市民球場が写っていますが、この2年後の2010年に閉鎖され、現在は取り壊されて暫定的に公園になっています。

まとめ


結構長くなってしまいましたが、国土地理院の航空写真を使って、戦前から現在までの広島市の変遷を見てみました。

戦後くらいから続けて見てみると、写真に写っている平和公園や100m道路、広島城などの木々が成長しているのが意外と印象的です。

実は、地形的なことを言うともっと面白い変遷を辿ったところがあるんですが、またそれは次回ということで。



・この記事中の航空写真データは、国土地理院 地図・空中写真閲覧サービスからダウンロードしたものを個人で加工したものです。


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